「リルーヴェル。……リルーヴェル、大丈夫か?」 「……っ……、……うん、……だい、じょうぶ……」 「……じゃ、ないだろ。……少し、休もう。それでいいな?」 返事は待たず、草原の中、ぽつんと立っていた木の近くに彼は腰を下ろした。かなり具合が悪いのだろう、真っ青な顔をしたその人を、木に寄りかからせた、その後で。 草原の中、二人はそこにいた。 短い、朝焼け色の髪をした青年と、肩より少し長い、夜明け色の髪を持つ青年。 瞳を閉じ、浅い呼吸を繰り返す夜明け色の青年の髪を、朝焼け色の青年は、可能な限りの優しさで撫でてやる。 その瞳に、哀しみをちらつかせながら。 「……先を急いでいるわけじゃないんだ。リルーヴェル。休みたいときは、言え」 「……うん。……ありがとう、ファルファイ」 朝焼け色の青年の手の優しさに感謝をしながら、夜明け色の青年は、微笑んだ。 そして、薄ぼんやりとした意識で、瞳を開く。目の前には、夕焼け空が広がっていた。 夕焼け空は、綺麗だとは思うが、あまり好きにはなれなかった。 あまりにも赤くて鮮やかで、世界すべてが赤く染まっていくような錯覚を覚えるから。 炎のような。 血のような。 夜明け色の青年にとって、怖いものの一つだった。 世界すべてが燃えて、血におぼれていくような幻覚を覚える。 「リルーヴェル、」 恐怖に震える自分の肩を抱きしめていた手に、朝焼け色の青年は自分の手を重ねる。考えていたことをすべて悟られているのだろう、申し訳なさでいっぱいになって、夜明け色の青年は謝ろうとしたが、朝焼け色の青年はそれを拒んだ。 優しく、微笑んで。 「俺を信じられるだろう? 俺が、お前を守ってやる」 だから、 「……だから、泣くな」 「……うん……」 その頬に、涙なんて、流れてはいない。 なのにそんなことを言う朝焼け色の青年の優しさに、本当に泣きそうになりながら、夜明け色の青年は、顔を上げて、空を見つめた。 赤い、綺麗な、綺麗な夕焼けが、草原を染めていた。 藍が淡くかかった真ん中の空に、白い銀色の星を見つけた。 懐かしい言葉。何度も繰り返してもらった言葉が、胸の奥に染み入る。 「……落ち着いたか?」 「……うん。ありがとう。もう、大丈夫」 朝焼け色の青年の問いかけに、夜明け色の青年は、微笑みかけて、答えた。木の幹を支えにしながら、ゆっくりと立ち上がる。途中、朝焼け色の青年の手も、支えてくれた。 これほど思ってくれているのだ。 いつまでも、立ち止まってはいられない。 「行こう、ファルファイ。……僕は、大丈夫だから」 「……お前が、言うなら」 夜明け色の青年の微笑みにつられて、朝焼け色の青年も、やわらかく微笑んだ。 そして二人は、並んで歩き出す。心を刺す夕焼け空に、背中を向けて。 目的の町についたころには、夕焼け空は、半分近くが消えかかっていた。 |